学園のマドンナとはスリーポイントシューターと同義語である。



ベリータルトといちごのショートケーキ



彼氏もちのサークルのマドンナをデートに誘ったらあっさりと了解を得た。「あの、いいんですか?」と一応確認した
ら「なにが?」と意味を知った上の笑顔で返され、俺は「俺のせいじゃない」というすばらしい大義名分を手に入れた。
なるほど、あらゆる過ちはこの大義名分をきっかけにはじまるのだと思った。

彼女は「ケーキを食べにいきましょう」と女の子のお手本のようなことを言って、あまいものに目がない俺は全肯定で
大きく頷いた。彼女の案内で、少し値は張るがそのおかげで人がまばらな落ち着いた喫茶店に入った。流石マドンナと
噂されるだけの女性だ。できる女は些細な選択も完璧に決めてみせる。それこそスリーポイントシューターのごとく外
さないのだろう。彼女の決してわざとらしくない後れ毛を見ながらそう思った。

店に入ると彼女は迷わずベリータルトを注文した。俺は迷わずいちごのショートケーキを注文した。
「いちごのショートケーキ」と彼女はケーキの名前をそのまま呟いた。
ボーンチャイナのまっ白な皿にのってケーキはやってきた。四角い皿が洒落ていた。ケーキの断面はその皿の一辺のよ
うにまっすぐできれいだった。ケーキは味も申し分無かった。生クリームは肌理が細かく口当たりはなんのひっかかり
もなく滑らかで、いちごの酸味も丁度よく、なによりスポンジ生地が文句無く素晴らしかった。美味しさをそのまま全
身で表現しながら食べていたら、「おいしそうね、ひとくちいい?私のもひとくちあげるから」と彼女に言われた。

「いいですよ」と言うと彼女は手をのばして俺のケーキの端を削った。「あまいね」とだけ彼女は言った。俺は「そり
ゃあ、いちごのショートケーキですからね」と言いながら彼女のケーキの端を削った。彼女のベリータルトはそれはそ
れは豪華な仕様で、ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、とにかくベリーと名のつくものをぎりぎりいっぱいま
でタルト生地の上にのせたような感じだった。ゆるいゼリーで固められたベリーたちはつやつやと光って食欲をそそっ
た。苦労しながらなんとか一口分を取り分けて食べ「やっぱりちょっと、すっぱいですね」と言った。彼女は「だって
ベリータルトだもの」とだけ言った。

ケーキを食べ終わってから、少しだけ世間話をして彼女と別れた。
ケーキを食べるまではあったはずの過ちを予感させる雰囲気は、ケーキを食べてしまってからはすっかりなくなってい
た。どうしてだろうと思ったけれど
「そっか、ベリータルト」
俺はケーキの名前をそのまま呟くと、目線を少しだけ上に上げて、目だけで笑った。彼女も今頃同じように笑ってい
るだろう。うまくいかなかったのに、すがすがしいことって、あるもんだ。







2012-2-6