【2010年某日】
家に帰ると、シーモアが騒いでいた。シーモアはロシア人で、うちの同居人だった。私が産まれる前からうちに居るら
しいが、いつまでたっても言葉は通じなくて、でもだいたいのことは身ぶり手ぶりで何とかなった。そのシーモアがえ
らく取り乱している。いつもは温厚な彼女のこんな顔は見たことがなかった。シーモアに引っ張られてリビングにいく
と、彼女は中央にある巨大なブラウン管テレビを動かしはじめた。人の背をゆうに越えるそのテレビの後ろには、首を
吊った祖父の姿があった。うちの家はものすごく天井が高く、テレビの上にはエアコンがあった。そこから携帯の充電
器のコードで吊られていた。私は即座に理解した。
「じいちゃんは、宇宙の秘密に近付きすぎたんや。」
その後、孫である私も標的にされ宇宙に連れていかれそうになり、数人の力士と対峙することになる。実は地球に居る
力士と呼ばれる人々は、潜伏した宇宙人だったのだ。ちなみにそのトップが朝青龍らしい。
力士を前に立ち尽くしている時、力士の影に小柄な女の子の姿を見た。よく見ると同じ予備校に通っているKちゃんだ。
Kちゃんは女の馬鹿っぽさを武器に私に取り入ろうとしてきた。何をしても許されるような傲慢さが垣間見えたが、で
もそれより、彼女は悲しさに溢れていた。力士にじいちゃんや私を売ったのは彼女かもしれない。でも私は、彼女がと
ても可哀想に思えてしまって、彼女との会話は避けて力士を睨んだ。私は立場的には圧倒的に不利なのに、態度はでか
いまま叫んでいた。
「私ひとりでええなら、はよう連れて行けや!」
力士たちは(なんだこいつ…)という顔をしてひるんでいた。
その隙にKちゃんが姉のCDを盗み出そうとしていたので、ついさっき思った可哀想とかは一瞬で関係なくなって、さっ
き以上のガラの悪い言葉でブチ切れていた。