付け加えるなら、とくにさつまいもがいい。
今日の料理
大根は、葉に近い部分を5cmくらいつかう。輪切りにしてから短冊切りにする。煮くずれやすいから少し太めに切って
おく。人参は、小さめのものをまるまる一本つかう。ピーラーで皮をむいたら、薄めのいちょう切りにする。歯ごたえ
を残したいなら、乱切りでも大丈夫だけど、俺はしっかり煮えていない人参が苦手だから、いつでも薄めのいちょう切
りにする。それから、牛蒡は半分つかう。包丁の背でガリガリ削って皮をむいたら、ささがきにする。水を張ったボー
ルの中に削られた牛蒡を次々に落としていく。太い鉛筆を削っているみたいだといつも思う。さつまいもは1/4本をつ
かう。これは少し厚めのいちょう切りにする。余談だが、さつまいもを切る時、包丁が垂直に降りてすたんと音を立て
るのが俺は密かに好きだった。大根も人参もすたんと鳴るが、さつまいもが一番いいすたんをしていると思うのだ。こ
れも水を張ったボールに浸けておく。流しの下から、牛蒡のとは別のボールを出して水を張る。ボールの中に手を入れ
るとキンと冷たくて、ぞくっと背筋が震える。今年は夏が長いような気がしていたけど、いつの間にかとっくに秋がや
ってきている。季節はいつもいつの間にか変わっていて、俺はだいたい乗り遅れる。まわりがすっかり長袖なのに、俺
だけ半袖なんてことがざらにある。でもこれももう、毎回のことだ。
次のこんにゃくに手を伸ばしたところで鍋が沸騰したので、粉末出汁と人参とさつまいもを入れて蓋をする。大根と牛
蒡は少し後から入れる。何回かつくって、なんとなく決まった順番というものを、俺は当てにしている。「料理なんて
適当でも大丈夫」と母親がよく言っていたが、なるほど、たしかに料理の勘みたいなものはおおざっぱにでも身につい
てくる。そしてこの勘が確かなスケールになるんだと、最近ようやく感覚的に分かった。そういえば、こんにゃくは、
便利なことに使い切りサイズというのがあるのでそれをつかう。まず横に半分にしてから、短冊に切って、そこからさ
らに細い棒状になるように切る。こんにゃくは同じサイズに切るのが難しいので、はじめは一本一本の幅が気になって
執着するが、後半面倒になって適当になる。ここらで一度鍋の蓋をあけ、野菜から出た灰汁をとる。けど野菜からはほ
とんど泡みたいな灰汁しか出ないから、気にしないのならとらなくてもいいと思う。
豚肉は少しでいい。手でちぎってできるだけ手早く入れる。別に節約という訳でもなく、単純に、そんなに主張してい
らないのだ。料理名にはしっかり豚と入っているが、俺はこの料理のメインは根菜だと思っている。付け加えるなら、
とくにさつまいもがいい。
豚肉から出た灰汁をとったら、こんにゃくを入れて少し置く。その間に味噌を用意する。菜箸で網じゃくに味噌をすく
ったら、出汁のなかに浸けて味噌を溶かしていく。それにしても最近の味噌は溶けるのが速いと思う。気のせいだろう
か。味噌が溶けたらまた鍋に蓋をして少し煮る。今度はその間につかったボールやらまな板やらをさっさと洗う。ここ
で面倒がると、二日も三日も片付かなくなることを、いいかげんに知っているからだ。火を止めて、お椀に盛りつけた
ら、冷凍してあるきざみねぎを散らす。ねぎは煮てしまうとどんどん色が悪くなるので、最初は抵抗があったが、今は
これで落ちついている。
「ひじかたさーん、旦那あー、起きて下さいよ。豚汁ですよー。」
湯気のたつお椀を三つ、お盆に乗っけて居間に戻ると、こたつの両側でそれぞれ同じような恰好で寝ている二人を起こ
す。両手が塞がっているので脚で揺り起こすが、土方さんは起きない。だが旦那はむくりと起き上がってきて
「…いい匂いがする」
「ほーら、だから豚汁ですってば」
「なにこれ」
「だから、豚汁です」
「………ぶたじる?」
「えっ、知らないんですか?」
「ああー…、もしかして、とんじる?」
「とんじる!?」
「しかも、なにこれ、豚汁ってさつまいもなんか入れねえだろ」
「ええっ!入れないんですか!?豚汁にさつまいも?」
「普通はな」
そのとき、旦那と豚汁のさつまいもについて話しながらも蹴り続けていた土方さんがようやく起き上がった。
「………いい匂いがする」
「あ、おい、ほら、ザキが豚汁つくったってよ」
「………とんじる?…おい、山崎……、なんでさといもが入ってねえんだ?」
「「里芋!!」
「?」
「なんだよ、それこそ聞いたことねえわ」
「…うそ、入ってねえの?さといも」
「普通入れねえだろ」
「と、とにかく、つくちゃいましたし、たべませんか?ほら、いただきます!」
このままだと豚汁が冷めかねないと思った俺は、もう無理矢理いただきますに持ち込んだ。すると、習慣ってのは恐ろ
しいもんで、誰かにそう言われると、手を合わせない訳にはいかなくなるようだった。二人とも静かに手を合わせてい
ただきますを言う。実のところどちらも眠気眼に変わりはないので、恐ろしく動作はゆっくりだ。
「うわー、さつまいもすげえ黄色いんですけど。豚汁に黄色いもん入れるなんてやっぱ聞いたことねえよ」
「…さといもが入ってねえなんて、豚汁とは認めねえ」
だが口だけは寝起きでも動くようで、俺はいろんな豚汁の話を聞きながら、故郷の味をすすった。
2012-10-5
twitterのほうでやっている寝起きフェスのためにかいたつもりが、いつのまにか寝起き関係なくなってた。ただの山
崎が豚汁つくる話になっていました。ちなみにこのあとさつまいも豚汁は三人によっておいしく頂かれます。坂田と土
方は、めっちゃ文句言いますが、これがどれくらい気を使われて作られた料理なのかを察しているので、決して残した
りはしない。そしてめっちゃ文句言われるものの、さつまいも豚汁またつくってとか言ってきやがる。