曲がり角
その日の授業は13時からでした。私は11時には起床していました。どうしても、お風呂に入りたく思い入りました。そ
れでも時間は充分あるように思われました。なのに家を出たのは12時50分でした。ぎりぎりでしたが、大学のすぐ傍に
下宿しているため間に合わない時間ではありませんでした。
その日は薄曇りでしたが、少し覗いた青空がとても青かったことを憶えています。少しくすんだ春の空の青さだと思い
ました。気温は肌寒く、今日着る洋服をまたまちがえたと思いました。私は自転車にまたがり漕ぎ始めました。夜間用
のライトがつけっぱなしでしたので、すぐに消灯しました。
しかし、そのとき運悪く私は大学にたどり着くことができませんでした。曲がり角を曲がれなかったからです。大学へ
は大通りに向かって二つ目の角を曲がらなければならないのですが、私はどうしてもその角を曲がることができません
でした。どうして?という問いはそうそうに放棄しましたので、理由を説明することはできません。私の身体が発した
信号を言語に訳したものでいいのなら「どうしても曲がるわけにはいかなかった」とのことです。
私は自転車を漕ぎながら曲がれる角を探しました。私の身体が許容できる曲がり角を探しました。結局三十分ほど自転
車を漕いだのですが、その間に曲がれた角はたった二つでした。
その先にはニトリがありました。全く持って予定外でしたが、せっかくなので店内を散策しました。そう言えばアイロ
ンが欲しかったことを思い出しましたが 990円という気味の悪い安さに怯えて手が出ませんでした。アイロン台は790
円でした。ですが、素敵な竹のトレイに出会いました。隣には素敵な和盆も並んでいて、あらゆる食器をのせて回りま
した。なんとなくそれだけで気分が満足したので、結局何も買わずに店を出ました。
大学に行くつもりでしたが、同じ角を曲がって家に戻ってしまいました。たかだか数十分では、曲がれる角を更新する
ことはできなかったようです。仕方がないので出しっ放しの布団に倒れこむとカシミヤの毛布がいつもより少しだけ優
しくしてくれたので、小説を読みながらうつらうつら眠りました。
起きると16時過ぎでした。外はすっかり曇り空になっていて一雨来そうな様相でした。ぼんやり空を眺めながら憂鬱に
なりましたが、なぜか曲がり角のことはすっかり忘れ去っていました。
昼に曲がれなかった角を曲がりこんどこそ大学に着くと、駐輪場で懐かしい友だち二人にあいました。二人とも私の姿
を見とめると、やわらかく目を細めて笑ってくれました。
やっぱり大学はわりかし好きな場所だと思いました。
2012-4-21