Yと水族館へ



祭りのビールの勢いでYとデートする約束をした
二時間かけて江ノ島まで来た
Yは夏なのにあつそうな恰好をしていた
せっかくなので海岸にまで降りたが、Yのロングスカートがあり得ないほど場違いだった
でもYはまったく気にしていなかった

江の水には海月がたくさんいた
海月は水母や久羅下とも書くが、江の水に居たのは海月だった
なかでも海網(シーネットル)は光って見えた
海月とは恐ろしいまでに複雑で、長くて、美しかった
浮いては沈み、沈めば浮いた
こいつらは一生こんな風に生きるんだなと思った
瞬きの瞬間に五年の時が過ぎていたとしても、海網の水槽の前では、何にも気づけないままだろうと思った

うっかりYのことを忘れていた
Yを見つけた
Yに海月はどうだったか聞いた
「随分消耗した」
「それはいいものを見たな」

江の水を出るともう夕暮れだった
もう一度海岸に降りて、今度は波打ち際までいった
江ノ島の砂は濃い鼠色をしていた
風が強くてすぐ隣に居るはずのYが随分遠くに居るような気がした
Yはすぐ後ろに居た
二人で気のすむまで潮騒を聴き続けた
波に向かい、戻され、また向かうサーファーが修行僧のように見えた

帰りに寄った川辺のレストランが久しぶりにあたりだった
また自分のことばかりしゃべってしまったのに、Yはおもしろそうに聞いてくれた
Yに肯定されると勇気が出るのだと、いつかYに伝えねばならないと思った








2012-8-17